インクルーシブ保育とは?保育者の役割、メリットや課題、実際の取り組み例を紹介!

少子化が進む中で、保育の現場ではますます多様な子どもたちが集まるようになっています。
障がいのある子ども、外国にルーツを持つ子ども、発達に特徴のある子どもなど、一人ひとりが違う背景や特性を持っている今、「誰もが安心して過ごせる保育」の重要性が見直されています。
本記事では、インクルーシブ保育の基本的な考え方から、現場で求められる保育士の役割、導入のメリットや実際の取り組み例までを、保育に関わるすべての方が、すぐに実践に活かせる視点を持てるように、具体的にわかりやすくご紹介します。

インクルーシブ保育とは?

「インクルーシブ保育」という言葉を耳にする機会が増えていますが、その意味や背景について詳しく知っている方はまだ少ないかもしれません。

この章では、インクルーシブ保育の基本的な考え方や、これまでの歴史、社会的な影響、類似する「統合保育」との違いについて整理します。

保育の現場に関わるすべての人が共通理解を持つための第一歩として、ぜひ押さえておきたい内容です。

インクルーシブ保育について

インクルーシブ保育とは、障がいの有無や国籍、家庭環境などにかかわらず、すべての子どもが共に生活し、学び合うことを目指す保育のことです。子どもの特性に応じて、支援の度合いは変わりますが、基本的には同じ空間で一緒に成長することが大切です。

この考え方は「すべての子どもに平等な学びと成長の機会を保障する」ことを目的としており、差別や分離ではなく、共生と理解を促すものです。

インクルーシブ(inclusive)という言葉は、「含む・包み込む」という意味があり、どの子も受け入れるという強いメッセージを持っています。

インクルーシブ保育の歴史

日本におけるインクルーシブ保育の考え方は、1990年代以降、徐々に広まり始めました。2006年には、国連で「障害者権利条約」が採択され、日本も2007年に署名、2014年に批准しました。

この条約の中では、インクルーシブ教育の推進が明記されており、それに呼応する形で、保育現場にもマジョリティへの「統合」から、マジョリティ、マイノリティにかかわらず「包括」への流れが強まってきました。

こども家庭庁や厚生労働省が発行している保育指針の中でも、「子ども一人ひとりの人権を尊重し、多様性を理解すること」が強調されています。これにより、全国の自治体や保育施設が、少しずつインクルーシブ保育の実践に取り組むようになっています。

統合保育との違い

よく似た用語に「統合保育(とうごうほいく)」がありますが、これはインクルーシブ保育とは考え方が異なります。

統合保育は、障がいのある子どもを通常の保育の中に「参加させる」という発想に近く、あくまで「受け入れる」側の視点が中心です。

一方で、インクルーシブ保育は「すべての子どもが対等な立場で生活すること」を前提としており、支援が必要な子どもだけでなく、すべての子どもを主役と考える点が特徴です。

簡単に言うと、統合保育が「特別に参加を認める」のに対して、インクルーシブ保育は「みんなが最初から仲間」という考え方で、そこに大きな価値の違いがあります。

インクルーシブ保育を取り入れるメリット

インクルーシブ保育は、ただ「すべての子どもを受け入れる」だけではありません。

実は、子ども自身の学びや社会性の育成、そして保育士のスキル向上やチームワーク強化にも大きく貢献します。

この章では、インクルーシブ保育を導入することで得られる子ども・保育士それぞれのメリットを、具体的な視点から整理します。

保育方針や園運営において、インクルーシブの視点がいかに価値あるものかをご確認ください。

子どもにとってのメリット

インクルーシブ保育には、子どもたちが成長するためのメリットがたくさんあります。子どもたちはみんなで一緒に過ごしながら、お互いを大切にし、助け合う方法を自然と学んでいきます。
ここでは、特に知っておいてほしい3つのポイントを紹介します。

自分とほかの子どもとの違いを知る

インクルーシブ保育の大きな魅力は、「違いを知ること」が自然に経験できる環境にあります。

たとえば、車いすを使う子や、言葉の発達がゆっくりな子と関わる中で、子どもたちは「なぜ?」「どうして?」といった疑問を持つようになります。

大人が教えなくても、子ども自身が相手の気持ちや背景に気づき、自分との違いに向き合うようになります。

これは、自己理解の第一歩でもあり、自分の特性に気づくきっかけにもなります。

多種多様な人がいることを受け入れる

同じ園で過ごす仲間として、さまざまな背景を持つ子どもが自然に存在することで、「いろんな人がいていいんだ」という価値観が育ちます。これは将来、学校や社会に出てからの人間関係にも大きく影響します。

特に、差別や偏見の少ない社会をつくるための土台は、幼少期の経験に根ざしています。インクルーシブ保育は、その基礎を育む重要な場なのです。

立場の違う友だちとの関わり方を学べる

友だちと関わる中で、「助ける」「待つ」「聞く」といった行動が自然と身につきます。

実際にインクルーシブ保育を取り入れている施設では、言葉がうまく話せない子に対して、絵カードを指さしてゆっくり説明したり、困っている子に席を譲ったりといった場面が日常的にあります。

これは、**共感力(エンパシー)**や社会性を育む機会になります。結果的に、子どもたちの協調性や思いやりの心が大きく成長します。

保育士にとってのメリット

インクルーシブ保育は、子どもたちだけでなく、保育士にとっても多くの学びや成長のチャンスがあります。多様な子どもたちと関わる中でスキルが磨かれ、チームで協力する力や保護者対応の力も自然と高まります。

保育士にとってのメリット3つをご紹介します。

保育のスキルを磨ける

インクルーシブ保育では、一人ひとりの子どもに応じた対応が求められます。そのため、観察力・判断力・柔軟な対応力など、保育者としての専門スキルが自然と高まります。

また、発達障がいや外国にルーツを持つ子どもなど、多様なニーズに応える経験を積むことで、自信とやりがいが感じられます。

これは、長く保育に関わる上でのキャリア形成にもつながります。

チームワークの向上

子どもの特性に応じた支援をするには、複数の職員が連携する必要があります。そのため、日常的に情報共有や相談の文化が育ちます。

「一人で抱え込まない」「みんなで子どもを支える」という意識が広がると、園全体のチーム力が高まり、働きやすい職場環境にも繋がります。

保護者との対応力が身につく

多様な家庭背景を持つ保護者と関わる機会が増えることで、伝え方や相談の仕方にも工夫が求められます。

この積み重ねによって、信頼関係を築く力や、保護者対応における説得力が高まります。結果として、保育士としての対応力に磨きがかかり、保護者からの安心感にも繋がります。

このように、インクルーシブ保育は子どもにとっても保育士にとっても、大きな学びと成長のチャンスを与えてくれます。

では次に、そのような環境を支える保育者には、どのような役割が求められているのでしょうか。次の章で詳しく見ていきましょう。

インクルーシブ保育における保育者の実践的な役割

インクルーシブ保育は、子ども同士が互いに認め合いながら育つための環境づくりを大切にしています。

そのためには、保育者の存在が欠かせません。単に見守るだけでなく、一人ひとりの育ち成長を支えるために、日々の保育の中で多くの判断と配慮が求められます。

この章では、インクルーシブ保育を実践するうえで保育者に求められる5つの役割について、具体的に解説します。

子どもの多様な育ち方を受け止める

子どもにはそれぞれ異なる育ち方があります。発達のスピード、感情の表現、興味・関心などに違いがあるのは当たり前です。
保育者には、こうした多様な育ちを否定せずに受け止める姿勢が求められます。

たとえば、落ち着きのない子どもに対して「落ち着かない」と決めつけるのではなく、「どうしてそうなるのか?」という視点で関わることが大切です。
このような視点を持つことで、子どもの特性を損なわないより適切な保育を行うことができ、子どもたちは「ありのままの自分を認めてもらえる」という安心感を得られます。

平等に経験ができるようにする

インクルーシブ保育では、すべての子どもが同じ経験の機会を持つことを重視します。

身体的に動きに制限のある子どもが、外遊びの際に見学だけで終わってしまわないように、このような場面では、保育者の支援が不可欠です。

「どうしたら一緒に楽しめるか?」を考え、必要に応じて道具や支援者を用意することで、活動への参加を可能にします。

このように、環境や支援を調整して平等な機会を提供することは、保育者の重要な役割のひとつです。

全ての子どもに愛情を注ぐ

インクルーシブ保育では、特定の子どもにだけ手厚く対応するのではなく、全員に対して公平な愛情をもって関わることが求められます。
どの子も「自分は大切にされている」と感じられることが、自己肯定感の形成に繋がります。

愛情は、言葉やふれあい、表情など、いろいろな方法で伝えられます。
子どもによって「安心できる形」は異なるため、日々の関わりから子どもが心を開きやすい方法を探ることも保育士の腕の見せどころです。

子どもの自立を図る働きかけをする

保育士の関わりは、子どもが自分の力で行動できるようになることを目的とすべきです。
そのためには、手助けしすぎないことも一つの支援になります。

たとえば、友だちとのトラブルが起きたときにすぐ介入するのではなく、子ども自身が言葉を選び、解決の糸口をつかめるよう促すことが大切です。
その積み重ねによって、子どもは社会性や問題解決力を身につけていきます。

保護者と連携をとる

家庭との連携も、保育者にとって欠かせない役割です。子どもの様子を一番近くで見ているのは保護者です。
しかし、家庭だけでは気づきにくいことも多くあります。だからこそ、保育者が日々の変化や成長を丁寧に共有することが信頼関係の構築につながります。

また、保護者も「自分の子どもがきちんと見てもらえている」と感じることで、園への安心感が高まります。
特に、インクルーシブ保育では保護者の不安を和らげる役割も保育者に求められます。

【インクルーシブ保育を進めるにあたって】子ども・保育士にとっての課題

インクルーシブ保育は理想的な保育のかたちとされていますが、現場に導入する際にはさまざまな課題に直面します。

特に「子どもにとっての不安」や「保育士への負担」は、見落とされやすい重要なポイントです。

この章では、インクルーシブ保育を進めるうえで知っておくべき課題について、子どもと保育士それぞれの立場からわかりやすくお伝えします。

子どもにとっての課題

まずは、子どもの立場から気になるポイントを紹介します。

インクルーシブ保育の環境では、子どもたちが感じる不安や困難も少なくありません。これらを理解することで、より良い支援につなげていきましょう。

多種多様な環境に慣れにくい

インクルーシブ保育では、障がいの有無、言語、文化など、多様な背景を持つ子どもが同じ空間で過ごします。
そのため、環境への適応が難しい子どもも一定数存在します

たとえば、自閉スペクトラム症などの子どもは、音やにおい、まわりの動きに敏感で、落ち着かないことがあります。
また、ルールの変化や予測できない出来事が苦手な子どももいます。

そのような子どもにとって、集団の中で過ごすこと自体がストレスになる場合もあるため、保育者は無理に参加を促すのではなく、個別の支援を検討する必要があります。

子どもが劣等感を感じる可能性がある

同じ活動を行っていても、能力やペースに差が出ることで「自分だけできない」「みんなに迷惑をかけている」と感じてしまう子もいます。
これは、自己肯定感の低下に繋がるリスクがあります。

大人の目線では「それぞれのペースでいい」と思っていても、子ども同士のなかでは、比較や評価が起こるものです。
そのため、活動の中で「できた/できなかった」よりも、「やってみようとしたこと」「工夫したこと」に目を向ける声かけが大切です。

保育士にとっての課題

次に、保育士の立場から特に感じやすい課題についてご紹介します。

インクルーシブ保育では、求められるスキルや判断が増えるため、不安や負担を感じることも少なくありません。こうした声に耳を傾けることが、より良い保育環境づくりに繋がります。

高いスキルや専門知識が求められる

インクルーシブ保育では、通常の保育に加えて、障がい理解や支援技術、心理面の配慮など、より高度な知識と判断力が求められます。

たとえば、発達障がいのある子どもへの対応では、「困っている行動」の裏側にある原因を考え、それに合った支援を行わなければなりません。
また、外国にルーツを持つ子どもとのコミュニケーションでは、言葉以外の手段を活用し、宗教などの文化的背景に配慮する力も必要です。

このような知識は、保育士養成課程だけでは十分に学べないため、現場での継続的な研修が欠かせません。

保育のやり方に戸惑うことがある

これまでの「集団に合わせる」ことを前提とした保育から、「一人ひとりに応じた支援」に変わることで、保育士自身が戸惑いや不安を感じる場面も多くなります。

たとえば、「この対応は公平なのか?」「この子だけ特別扱いにならないか?」と悩むこともあります。
こうした迷いは、保育士のストレスや燃え尽き原因にもなるため、園全体で情報共有や方針の話し合いを定期的に行い、保育士が孤立しないように支える体制づくりが重要です。

インクルーシブ保育の実現には、子どもの特性を理解し、それぞれに合った支援を模索し続ける姿勢が欠かせません。
一方で、課題を「個人の努力」で乗り越えようとせず、園全体で支え合う文化づくりが必要です。

インクルーシブ保育の遊び方や実践例

インクルーシブ保育は理念だけでなく、日々の活動や遊びの中でこそ真価が問われます。

この章では、実際に保育現場で行われているインクルーシブな遊び方や取り組みを3つご紹介します。子どもたちの違いを受け入れながら、誰もが安心して参加できるよう工夫された実践例を抜粋していますので、ぜひ今後の保育にお役立てください。

年齢に関係のない自由な縦割り保育

インクルーシブ保育では、「年齢による一律な活動」から脱却し、縦割りで自由に関われる環境を取り入れている園もあります。

たとえば、異年齢の子どもたちが一緒に遊ぶ時間を設けることで、年上の子が自然と年下の子をリードしたり、困っている子を助けたりする姿が見られます。
これは「教え合う」「助け合う」関係性を育てる貴重な機会です。

また、縦割り保育では、発達や年齢による差が目立ちにくくなるという利点もあります。
同じ活動に取り組んでも、それぞれの子どもが「自分のやり方」で関われるため、比較や競争の圧力が少なく、安心感のある集団が形成されやすいのです。

子どもが自由に決定できる保育

子どもが「自分で選ぶ」「決める」という経験は、自尊感情を育てるうえでとても大切です。
インクルーシブ保育では、この選択の自由が特に重視されています。

たとえば、活動内容を一律に決めるのではなく、「今日は絵を描くか、積み木をするか、自分で選んでみようね」といった声かけをします。
また、感覚過敏のある子どもにとって苦手な素材や環境がある場合も、無理に参加させるのではなく、選択肢を提示して調整することが大切です。

こうした柔軟な設定は、どの子も「自分で決めた」「受け入れられた」と感じる体験に繋がりつながり、安心して活動に取り組めるようになります。

バイリンガル保育

国籍や文化の異なる子どもを受け入れる場面では、バイリンガル保育の工夫が活用されています。
たとえば、英語や母国語であいさつをしたり、絵本の読み聞かせを日本語、英語で行なうといった取り組みです。

言葉が通じにくい中でも、絵カードやジェスチャー、リズム遊びなど、非言語的な手段を用いることで、自然なコミュニケーションが生まれます。
これは外国籍の子どもに限らず、言葉の発達に遅れのある子にとっても有効です。

多言語や多文化に触れる機会は、多様性を受け入れる力を育てるだけでなく、クラス全体に「違いが当たり前」という空気を育てます。

インクルーシブ保育の実践は、特別な設備や教材が必要なわけではありません。
大切なのは、「どの子も心地よく参加できるようにする」という視点と、小さな工夫の積み重ねです。

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執筆者情報

上杉 功(うえすぎ いさお)株式会社チポーレ代表取締役。

保育士の採用や園児集客をサポートするサービスを展開中。保育士や園長の負担軽減と保育の質の向上を目指し、現場に即したサービスや情報発信を日々行っております。


参考文献:外務省『障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約)